今回のエントリーは、今年最後ということで、数学のことをを書こう。テーマは、「素数の分布に偏りが見られる理由」である。
ディリクレの研究によって、素数を「割った余り」で分類しても、極限で見るかぎり、その割合はみな同じであることがわかっている。
例えば、素数を末尾で分類する(10で割った余りで分類する)と、2と5を除けば、どの素数も末尾は1, 3, 7, 9のいずれかだ。そして、x以下の末尾1の素数の割合、x以下の末尾3の素数の割合、x以下の末尾7の素数の割合、x以下の末尾9の素数の割合は、xを無限に近づけるとき、みな1/4に近づく(均等に近づく)のである。これを「ディリクレの算術級数定理」と呼ぶ。(どの末尾の素数についても無限個存在する、という証明は拙著『素数ほどステキな数はない』技術評論社を参照のこと)
このことは数値計算でも見てとれる。実際、100000000番目までの素数を分類すると、末尾1は24999437個、末尾3は25000135個、末尾7は25000401個、末尾9は25000027個となっており、ほぼ4分の1ずつの均等になっている。他方、連続する素数(隣り合う素数)の末尾の組で分類してみると、見逃せない偏りがあることがOliver&Soundrarajanの論文で報告されている。これについては省略するので、詳しくは、『素数ほどステキな数はない』技術評論社を参照してほしい。
しかし、今回紹介するのは、Oliver&Soundrarajanの偏りではなく、「チェビシェフの偏り」と呼ばれるものである。ぼくはこれを知らず、小山信也先生のyoutubeでの講演動画、「チェビシェフの偏り」の解明と一般化、で初めて知った。
「チェビシェフの偏り」とは、19世紀の数学者チェビシェフが見つけたもの。例えば、x以下において、4で割った余りが3の素数のほうが、余り1の素数よりたいてい多い、という現象のことだ。講演によれば、26861未満では常に余り3の個数の方が余り1の個数以上であり、26861で初めて逆転するが、その後すぐにまた余り3の個数の方が多くなり、それが長く続くのである。
この「チェビシェフの偏り」は、「ディリクレの算術級数定理」と食い違っているように見えるが、そうではない、というのが、小山先生と共著者の最新の発見なのである。小山先生によれば、それは「深リーマン予想」から説明できる、という。
「深リーマン予想」については、以前、「シン・リーマン予想」というタイトルでエントリーしてあるので、詳しい解説はそちらで読んでほしいが、要するにリーマン予想を強めた予想のことである。リーマン予想とは、「ゼータ関数の虚の零点の実部がすべて1/2」という未解決の予想であるが、「深リーマン予想」とは、「実部が1/2の複素数でオイラー積が条件収束する」という予想である。「深リーマン予想」⇒「リーマン予想」ということが証明されている、つまり、「深リーマン予想」が証明できれば、それから「リーマン予想」が正しいことが示されることから、「深」と冠付けられているのだ。(ぼくは庵野監督にならって、シン、とすることを提案している。笑)。
小山先生のyoutubeのレクチャー「チェビシェフの偏り」の解明と一般化では、「深リーマン予想」が正しいとすれば、「チェビシェフの偏り」が数学的に証明できることを説明している。そして、その説明はめちゃくちゃ明快である。「チェビシェフの偏り」とは、4で割った余りの例で言うなら、「余り3の素数と余り1の素数は、無限まで見れば同数だが、順序的には余り3のほうが相対的に早く出てくる」と解釈できる。そしてそれは、なんということか、「ディリクレのL関数のオイラー積が、実部1/2の複素数で条件収束する」に帰着させることができるのである。詳しくは動画で学んでほしい。きっと、その明快さに目からうろこになると思う。
「深リーマン予想」から「チェビシェフの偏り」が証明でき、しかも、「チェビシェフの偏り」が数値計算からかなり正しい手応えがある、ということは、「深リーマン予想」が正しいという傍証となる。したがって、今回の小山先生と共著者との結果によって、「深リーマン予想」の信憑性が高まったということができるだろう。また、このような研究の仕方は、数学研究の良い模範になるに違いない。