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高木貞治『初等整数論講義』の続きで読むべき数学書

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 前回のエントリーからだいぶ時間が経過してしまったが、予告した通り、小野孝『数論序説』裳華房を紹介しようと思う。この本は、整数論の本だ。そして、ぼくの個人的印象ではあるが、高木貞治『初等整数論講義』共立出版を意識して書かれた本だと思う。そして、その意識の仕方が実にみごとで、だから、高木貞治『初等整数論講義』のあとに是非とも読むべき数学書なのだ。

 

数論序説

数論序説

  • 作者:小野 孝
  • 発売日: 1987/01/25
  • メディア:単行本
 

 高木貞治『初等整数論講義』を中級の数学書とすれば、この小野孝『数論序説』は上級の数学書なので(ちなみにもっと難しい本を、ぼくは「専門書」と呼んでる)、ある程度数学科的数学になじんでいないと読みこなせないと思うので、万人向きではないから注意してほしい。

実際、「はしがき」に次のようにある。

第2章以降は`中等整数論'とでもいうべきものである。内容は高木貞治先生の2著「初等整数論講義, 共立出版, 1983」、「代数的整数論, 岩波書店, 1971」を適当に攪拌し当世向きに調合したものとでもいえようか。

したがって、もちろん、この本を読む前に高木貞治『初等整数論講義』を読破すべきだし、読破できたなら、(現代的な数学の心得が多少あれば)、本書にチャレンジするのが適切だと思う。(高木『代数的整数論』はわかりにくい本なので、読まないでこっちに進むのが吉)。ちなみに、『初等整数論講義』に対するぼくの感想は、

高木貞治の数学書がいまさら面白い - hiroyukikojima’s blog

にエントリーしたので、参考にしてほしい。

 『初等整数論講義』(以下、[高木]と略す)は、おおまかに言うと、「連分数」「平方剰余相互の法則」「2次体の数論」がテーマの本。ここで「連分数」とは、分数の分母が再び分数で、その分母が再び分数で・・・という形式で実数を表わす技術のこと。「平方剰余相互の法則」とは、素数を法とする合同式において、与えられた整数が平方数と合同になるかどうかを簡単に判定できる法則、「2次体の数論」とは、整数のルート数を有理数に加えた2次体(有理数+有理数√mの数の集合)において整数を定義し、その素イデアル分解を考察する分野のこと。

『数論序説』も、基本的には、同じテーマ「連分数」「平方剰余相互の法則」「2次体の数論」を踏襲している。ただ、その扱い方は、より現代的になっている。つまり、初等的に証明できる定理も、わざと現代数学の道具を使ってアプローチしているのである。

 「連分数」では、行列の成す群を駆使している([高木]にも多少は出てきてはいるが)。

 「平方剰余相互の法則」の証明ではそれは顕著で、[高木]では格子点を使って、非常に初等的に(中高生でも理解できる)証明しているけど、この本では「アーベル群の指標」というのを使って、「ガウス」を見ることで証明している。「アーベル群の指標」というのは、可換性のある有限群(有限アーベル群)から複素数への写像で、群演算を積とみなして保存するようなものだ。「ガウス和」とは、指標たちに1のべき根を掛けて足し合わせた和。これがある種の循環性を持つために、うまく「相互則」が出てくる仕掛け。

この「指標」と「ガウス和」を使う証明のほうが(難しいけど)優れていると思うのは、あとで(2次体を含む)「代数体の数論」を展開するとき役に立つからだ。例えば、「奇素数のルート数を添加した2次体が、円分体(1のべき根を有理数に添加して作る体)の部分体となること」が簡単に証明できるし、「フェルマー素数の正多角形がコンパスと定規で作図可能である」証明も著しく簡単になる(この証明はほんとにみごとで、[高木]より明快)。

 「2次体の数論」に至ると、これはもうすごくて、ガロア理論から「代数体の数論」を一般的に導出して(たぶん、[高木]よりエレガント)、そこから2次体の整数環に話を還元する。

 なによりぶったまげるのは、「2次体の数論」を完成するために、な、なんと!コホモロジー」を持ち出すのである。たかが2次体のために、たかがルート数のために、最先端の武器である「コホモロジー」という最強呪文を唱えるのだよ。

 「コホモロジー」というのは、集合たちと写像たちが、→A→B→C→、のようなつながりをしていて、Aの要素を2回の矢印で写像するとCにおいて0になるような構造を持つものに定義される量だ。最先端の数学をつかさどってると言っても過言ではない。

 ぼくは、ずっと「コホモロジーって要するになに?」を知りたくて、数学書を勉強してきた。でも、普通は代数幾何で、例えば、リーマン面の理論の中で扱われるのが常なんだけど、それが異様にわかりずらい。局所的な関数の集合を扱うから、定義もわかりにくいし、何をやらんとしてるのかがつかめないからだ。挫折を余儀なくされる。

 ところが、この本の「コホモロジー」はけっこうわかりやすいのである。それは、「有限群」(しかも、「巡回群」という簡単な群)を対象とするコホモロジーだからだ。定義もわかりやすいし、6角形を成す「完全系列」(「像」=「0の逆像」が成り立つ系列)の補題も簡単に証明を追える。だから、「コホモロジーって要するになに?」の解答を得るのは、この本が一番ではないか、と思えるのである。実際、ぼくは、「コホモロジー」目当てでこの本を購入した。

 おまけとして付け加えると、この本で与えられている「ガロアの基本定理(部分群と中間体の一対一対応)」の証明は、現存する最短の証明じゃないかと思った。わずか8ページで完成している。

 ただし、証明は「代数的閉体」を使うので、かなり超越的。ツォルンの補題とか出てくるからね。数学科の数学に通じてない素人読者がこの定理を理解するには、拙著『完全版 天才ガロアの発想力』技術評論社が、最も初等的で最短で最適だと思うぞ(自画自賛)。

 とは言っても、まだ、前半の2章しか読んでないので、後半も読んだら、また紹介するつもり。

 

初等整数論講義 第2版

初等整数論講義 第2版

 

 

 

 

 

 

 


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