このところ、数学関係のエントリーが続いたので、閑話休題、久々に音楽のレビューを書くことにする。
先週、ジャズのライブに行った。ギタリストのマイク・スターンのバンドに、ゲストとしてギタリストの渡辺香津美が加わったライブだった。
いやあ、めっちゃすごいライブであった。とりわけ、ドラマーのデニス・チェンバースがみごとだった。デニス・チェンバースは、すごい昔から知ってたので、すげ〜年寄りのドラマーだと思い込んでたけど、実はそんなでもなかった。ぼくと同じくらいの年齢だった。
マイク・スターンは、ぼくが大学生の頃、マイルス・ディビスのアルバム『ザ・マン・ウィズ・ザ・ホーン』でデビューした天才ギタリスト。ぼくは、このアルバムでマイルスが大好きになったけど、ジャズ通の友人は、「マイルスは、ロックに魂を売った。これはもうジャズじゃない」などと批判していた記憶がある。その批判の中心は、スターンのギターを導入したことにあったんだと思う。ぼく自身は、スターンのギタープレイに痺れまくり、「こんなすごいギターを弾ける若者がいるのか」とぶっとんだものだった。
渡辺香津美のギタープレイを初めて観たのは、74年か75年だと思う。高校のブラスバンドの同級生が、「すっげ〜才能の若いギタリストが出たから、一緒に聴きに行こう」というので、ついて行った。あてにならない記憶では、銀座のヤマハのイベント・スペースだったと思う。客は10人くらいしかおらず、みんな床に直に座って、クッションに肘をついてごろごろしながら寛いで聴いた。なんと贅沢な経験をしたことか。デビューほどない渡辺香津美は、若造そのものだったけど、すでにものすごい速いリフを弾きまくっていた。
渡辺香津美に次に注目したのは、中学時代の友人でギター野郎だったやつが、デビュー間もないYMOのライブ音源を持ってきたときで、それに渡辺香津美がギタリストとして加わってた。YMOの曲に、彼のギターが加わると、かっこよさが数倍になった。アルバムが出るのを待ち焦がれたけど、YMOのライブ盤が正式に発売されたときには、ギターの部分がカットされていて残念だった。(すごく後になって、アルバム『フェイカー・ホリック』では再収録された。これは、死ぬほどカッコイイ演奏だぜよ)。
マイク・スターンのライブは、青山のブルー・ノート東京で行われた。ブルー・ノートは、初めて行ったのだけど、すごく環境のいいライブスペースだった。座って観られるし、お酒を飲んだり、おつまみを食べたりできるし、どの席からでも良く見える。音もすごく良い。やっぱり、大人はこういう環境でライブを楽しみたいものだ。最近、よく行っているライブは、若者が中心のバンドのものなので、「立ちっぱなし・見えない・暴れる」で、ほんと落ち着いて曲を楽しめない。
これだけじゃ、物足りないので、最近購入したCDのレビューも付け加えるとしよう。買った順で。
まず、最初は、赤い公園のニュー・アルバム『純情ランドセル』。
- アーティスト: 赤い公園,津野米咲,島田昌典
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック
- 発売日: 2016/03/23
- メディア: CD
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赤い公園は、ここ数年で、最も回数多くライブに通ったバンドである(六本木で赤い公園を観てきた。 - hiroyukikojimaの日記とかスタジオコーストで赤い公園のライブを観てきますた - hiroyukikojimaの日記などを参照のこと)。若い女子4人のバンドだけど、ほんとに斬新にして多彩な曲を作るので、すばらしい。それは、作曲の津野さんが、ものすごくイマジネーションの豊富な人で、さらにはたぶん、とてもよく音楽を勉強しているからできることなんだと思う。今回のアルバムも、非常に多様なジャンルの曲から成っていて、とても楽しい。パンクっぽい曲もあるし、ハードロックもあるし、なんと!ディスコサウンドっぽいのまである。とりわけ、「ショート・ホープ」という曲がサプライズ。これはジャズ・ファンクなフレーバーの曲になってる。ここでの津野さんのギターには、「こういう風に弾けるんだ」とびっくり。歌詞では、「14」のものが、瑞々しい。彼女たちは、まだ、中学生の頃の感覚を失ってないんだね。
貶められたくないし
陰口はたたく
怒られたくないし
良い子にもなれやしない
だってさ。もちろん、シングル・カットされた「Canvas」と「KOIKI」は、赤い公園節でありながら、非常に優れたポップスとなっていて、名曲だと思う。佐藤さんの明るいけど切ない声質がよく映える曲だ。
二枚目は、Tricotのニュー・アルバム『KABUKU EP』だ。
- アーティスト: tricot
- 出版社/メーカー: SPACE SHOWER MUSIC
- 発売日: 2016/04/27
- メディア: CD
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このTricotも、ここ数年、相当回数ライブに通っているバンドだ(赤坂ブリッツで、Tricotのワンマンライブを観てきた。 - hiroyukikojimaの日記とか渋谷でトリコのライブを観てきますた - hiroyukikojimaの日記とか参照のこと)。女子三人から成るユニットで、変態変拍子の曲調を本領としている。本人たちは、売れ線のJポップをやってるつもりなんだろうけど、ぼくはプログレ・パンクのジャンルに分類してる(すいません、Tricotの皆さん)。
このアルバムは、5曲から成るハーフ版。面白いのは、1曲はアカペラで、残りの4曲はすべてドラマーが異なっているというところ。4人のドラマーは、オーディションで公募したとか。
今回のアルバムは、とにかく、とにかく、すっげ〜、の一言。リズムがとんでもなく格好良くて、なのに、ボーカルラインがエモくて泣ける。よくこんな曲たちを作れたもんだと思う。
前作のアルバム『AND』は、良いことは良いんだけど、なんというか、変拍子にこだわりすぎで、デビュー当時に持っていたエモーショナルな感じが少しだけ薄くなった感があった。対して、今回のアルバムは、初心に回帰した、いや、もっとパワーアップしたエモーションがあって、すばらしい。
このバンドは、日本語の特性をうまく利用して、非常に自然な歌詞で変拍子を実現している。一聴するだけでは、変拍子だと気づかないくらい自然なボーカルラインになっている。ぼくは、ゼミ生とのバンドで、彼らの曲「爆裂パニエさん」のリード・ギターを弾いた経験があるが、この曲のみごとな歌詞の構成には舌を巻いたものだった。(途中で、ギターだけが一定リズムで弾いて、ドラムとベースのリズムがずれていくクリムゾンチックな場面があるんだけど、結局、ベースとドラムに巻き込まれてしまった。クリムゾンマニアとして情けなか)。
このバンドの本領は、リズムの切れ味とボーカルの切なさのトッピングにある。そういう意味で、今回のアルバムでは、3曲目「あ〜あ」と4曲目「プラスティック」にノックアウトされた。とくに、「あ〜あ」の歌詞は、「仕事がくだらなくなって、嘘の寿退社で会社辞めちゃうOL」の話。この突拍子もない歌詞に、すんごい変拍子が乗ってるのは、のけぞるしかない。4曲目「プラスティック」は、とにかく、YUUMIさんのドラムがかっちょいい。
三枚目は、相対性理論のニュー・アルバム『天声ジングル』。
- アーティスト: 相対性理論
- 出版社/メーカー: みらいrecords
- 発売日: 2016/04/27
- メディア: CD
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いやあ、タイトルが、毎度のことながら、あまりにすばらしい。こんな語呂合わせ、どうやって考えるんだろう。
まあ、とにかく、このバンドは、やくしまるえつこの声に尽きる。これは神声だよ、ほんと。この声を保てば、おばあちゃんになっても、青春の歌を歌えると思うぞ。
1曲目「天地創造SOS」の第一声からもう、ノックアウトされちゃう。2曲目「ケルベロス」では、やくしまるさんのアニメ声で「ワンワン」とか言われると、もう、胸の奥の方がくすぐられてたまんないっす。その上、この2曲は、演奏が今までになくハード。とりわけ、ベースラインがすごいと思う。
歌詞も、いつもながら、ぐっと来るものが満載だ。例えば、7曲目「夏至」は秀逸。
13才 夢を見る 14才 闇を知る
15才 恋に溺れては 暑く暑く焦らす夏が来る
18才 桜散る 19才 向こう見ず
20才 大人になれずに 暑く暑く茹だる夏が来る
こんな歌詞、書けそうで、絶対書けないと思う。
さて、来週は、赤い公園とTricotのライブに行く。すばらしい、すんごい演奏、聴かせてね、期待してるぞ。でも、よりによって、なんで同じ週にするかなあ、体力的に不安。相対性理論の武道館公演は、大学で期末テストの真っ最中で忙しく、どうするか思案中。