前回のエントリーでお知らせしたように、ぼくの新著が刊行される。刊行まであと一週間ぐらいになったので、販促を始めようと思う。タイトルは『シン・経済学~貧困、格差および孤立の一般理論』帝京新書である。
帯には、『宇沢弘文氏没後10年・森嶋道夫氏没後20年』特別企画、とある。実際、本書の中には、宇沢先生の思想と森嶋先生の思想をふんだんに書き込んである。本書はお二人へのオマージュであり、その一方で、経済学への新しいアプローチの提案の書でもある。
まだ刊行前の今回は、目次と各章の簡単な要約をさらそう。
「はじめに」
この章では、日本の「見えざる貧困」について解説している。参考にした本は、阿部彩『弱者の居場所がない社会』、阿部彩・鈴木大介『貧困を救えない国日本』、石井光太『日本の貧困のリアル』
第1章 限界を暴いた経済学者
この章では、経済学の歴史と新古典派経済学に対する宇沢先生の批判を解説している。
第2章 「失われた30年」の真相
この章では、バブル経済のあとに不況が訪れることを中心に、ケインズ経済学についてまとめている。
第3章 長期不況と金持ち願望
この章では、ケインズ経済学を超克した小野理論(小野善康さんの長期不況理論)について説明している。とりわけ、小野さんの「資本主義の方程式」を導入して、バブル経済のあとに不況が訪れる理由を解明する。
第4章 見えざる貧困の解決
この章では、小野さんの研究を引用して、ケインズがどう間違ったか、とりわけ乗数理論の誤謬を解説する。その上で、見えざる貧困の解決には宇沢先生の「社会的共通資本の理論」が有効であることを説得する。
第5章 値段のないものの価値
この章では、経済学の真骨頂とも言える「帰属価格」について、けっこう丁寧に解説する。帰属価格とは「値段のないものの価値を測る」数学的技巧であり、理系向けに言えば「ラグランジュ乗数」のことだ。応用として、自動車の社会的費用、最適成長理論、温室効果ガスとしての二酸化炭素と炭素税、を解説する。
第6章 教育の自己言及性
この章では、社会的共通資本としての教育をどう考察すべきかを論じる。題材として、センの潜在能力アプローチ、ボウルス・ギンタスの対応原理、ジョン・デューイの思想を概説する。その上で、社会的共通資本の5つの特性について論じる。
第7章 医療を基本とする資本主義
この章では、政策のターゲットをGDPから健康寿命へ変更することを提案する。それがぼくの構想している「医療ベース資本主義」である。
第8章 シン・経済学の待望
この章では、物理学との比較によって、経済学がいかに未熟であるかを論じている。経済学がダメな原因を、経済学における「限界革命」がニュートン力学を模倣したことに求める。その上で、経済学が模範とすべきだったのは「熱力学」であり、そして今でもそうであることを説得する。要するに、シン・経済学とは「熱力学的経済学」なのである。(勘違いしてほしくないのは、決して、「統計力学的経済学」ではない、ということ。それなら既にいくつか研究成果があるし、それらはそんなに有望なものじゃないと個人的に思っている)。
第9章 過去の最適化
この章では、主にロールズ『正義論』とそれをぼくなりに拡張した「過去の最適化」について論じている。言ってみれば、経済学への哲学的アプローチである。
章立てを眺めた人は、異端の経済学に見えるかもしれない。でも、「人々を幸せにできる経済理論」で、現在最も有望なものが、宇沢先生の「社会的共通資本の理論」だと、ぼくは正直思っている。もっと適切な理論がどこかに存在するのかもしれないけれど、既存の理論の中ではぼくにはこれしか候補がない。本書には、ぼくがどうしてそう思うかを魂を込めて書いたつもりだ。