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また、最大の素数が更新された!

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 また、最大の素数の記録が更新された。朝日新聞の1月24日の記事によると、2233万ケタの素数が発見され、確認された、とのことである。2013年に更新されたあとの3年ぶりの更新となる。いやあ、めでたいめでたい(何がめでたいのかは、うまく言えないが、とにかくめでたい)。

 発見したのは、アメリカのセントラルミズーリ大学のカーチス・クーパー教授とのことだ。これだけ巨大な数だから、一台のコンピューターでは確認できない。世界中のコンピューターをつなげて、並行処理によって確認した、ということらしい。そういうプロジェクトGIMPSというのがあるのだそうだ。

 このような巨大な素数は、すべて「メルセンヌ素数」と呼ばれるものである。これは、2のべき乗から1を引いたタイプの数の中で素数になるものをいう。小さいほうから、少し列挙してみよう。2の2乗引く1は3で、これが最初のメルセンヌ素数。次のは、2の3乗引く1で7。三番目は、2の5乗引く1で31である。

 メルセンヌ素数は、最初のうちは、このように頻繁に出てくるけれど、すぐに非常に稀な数になる。wikipedia(メルセンヌ数 - Wikipedia)によれば、今回見つかったのが49番目、ということである。まず、「べき」に当たる数は素数でなければならない。実際、先ほどあげた、最初の3つでも、「べき」はそれぞれ、2, 3, 5でみな素数となっている。この事実は高校で習う因数分解公式の簡単な応用問題だから、知らなかった人は考えてみてほしい。もっと直観的にわかる証明を述べるなら、メルセンス素数を2進法で書くと1を並べた数に必ずなる、という事実が役立つ。実際、2進表示すると、3→11、7→111、31→11111となっている。1の個数は「べき」と一致する。べきnが2以上の約数aを持つ場合、1をn個並べた2進数は1をa個並べた2進数で割りきれるので(実際、10進法と同じく、縦の割り算を実行すればすぐわかる)、これは素数にはなれないのである。

ちなみに、2のべき乗引く1が素数かどうか判定しやすいことの一つの理由は、この2進表示の簡単さが計算機で扱いやすいことにあるとのことだ。実際、普通の巨大な数を素因数分解することは、計算機でも手に負えない問題で、それがRSA暗号(パスワードに利用されている暗号化の方法)の安全性の根拠となっている。このあたりの話は、拙著『世界を読みとく数学入門』角川ソフィア文庫に詳しく書いたので、是非、読んでみてほしい。

2のべき乗引く1が素数かどうか判定しやすいことのもう一つの理由は、「小さな素数から順々に割っていく」という愚直な方法とは異なる、巧いテスト方法があるからである。それは、2乗を使って逐次計算していくリュカ数列というのを使ったリュカテストと呼ばれる判定方法だ。リュカテストは、先ほどのwikipediaのページに書いてあるから、そちらで読んでいただきたい。ぼくが、中学生の頃に読んだ素数の本では、「ルカステスト」と書かれていたように記憶してる。Lucasを英語読みしていたのではないか、と思われる。

 素数が無限に存在することはよく知られている。ギリシャ時代にユークリッドが既にみごとな証明を発見していた。また、オイラーによる発散無限和(ζ(1)=自然数の逆数和)を使った証明も有名である。さらに、オイラーは、「素数の逆数の総和」、すなわち、1/2+1/3+1/5+1/7+・・・が無限大に発散することも発見しており、これも素数が無限にあることの別証となっている。ところが、現在、巨大な素数を発見するには、メルセンヌ素数を見つけるしか手立てがなく、にもかかわらず、「メルセンヌ素数が無限に存在する」というのは、単なる予想にすぎないのである。もしも有限個しかないなら、巨大な素数を見つけるこのアプローチは、いずれ無意味な仕事と化してしまう。

 リーマン予想の研究者である黒川信重先生とぼくとの対談で作られた名著(笑)に、『リーマン予想は解決するのか? 絶対数学の戦略』青土社がある。

リーマン予想は解決するのか?_絶対数学の戦略

リーマン予想は解決するのか?_絶対数学の戦略

本書には、黒川先生による「数論の予想解決・予言表」というすばらしいものがついているので、それを一部引用してみよう。これは、数論の課題の解決と科学・技術の発明時期とを対応されたものである。黒川先生のユーモアぎりぎりの(たぶん)まじめな予言である。

    数論の課題                 科学・技術・SFの開発発明

○合同ゼータに対する行列式表示とリーマン予想 

(1965、グロタンディーク;1974、ドリーニュ)      コンピューター・ネットワーク

○ガロア表現変換群 (1980、メーザー)      ネットワーク・ウィルス(感染)

○有限数体上のすべてのゼータの行列表示とリーマン予想    タイムマシン

○一般ガロア表現のアルチン予想               テレポーテーション

○マース波動形式に対するラマヌジャン予想と佐藤テイト予想      ワープ航法

○双子素数無限個                       半重力装置

○メルセンヌ素数無限個                  反重力装置

○フェルマー素数無限個                  負エネルギー装置

という塩梅である。この予言表によれば、メルセンヌ素数が無限個あることの解決は、双子素数よりもあとで、反重力装置が発明される頃となっている(双子素数については、またまた双子素数の研究が進んだようだ。 - hiroyukikojimaの日記のエントリーを参照のこと)。それはいったい、具体的にはいつ頃なのだろうか?それについては、黒川先生とぼくの対談本の第二弾である『21世紀の新しい数学 絶対数学』技術評論社にある。

この本で黒川先生が予言しているのは、メルセンヌ素数が無限個存在することが証明されるのは2500年頃、ということだ。上の対応で言えば、この年は反重力装置が発明される年でもある。気が遠くなるほど先のことであることは疑いない。

黒川先生は、なぜ、双子素数やメルセンヌ素数についての解決をそんなに遠い先と考えているのか。そのおおまかな直観は、やはり、『21世紀の新しい数学 絶対数学』技術評論社の中で述べられている。それは、冒頭に書いたことと関係ある。冒頭に書いた通り、素数が無限個あることのオイラーの証明は、ゼータ関数という発散無限和に立脚している。そして、さらには、それから素数の逆数和が発散することが示される(素数が有限個だったら逆数和も有限になる)。双子素数については、その逆数和が有限であることが既に証明されている。したがって、オイラーの方法は少なくとも同じ形では通用しないとわかる。メルセンヌ素数については、(2のべき乗の逆数和は有限だから)、その逆数和が有限であることは、高校生にでもわかる。したがって、同様に、オイラーの方法は直接には使えない。そこで、黒川先生は、「現在見つかっていない新たなゼータを見つけることが不可欠だろう」と考え、それに5世紀にも及ぶ歳月を見込んでいる、というわけなのだ。

黒川先生の予言が当たっているなら、ぼくがこの世にいなくなってからの、途方もない時間が流れたあとの世界、ということになる。再生医学が発達して、5世紀後に一瞬だけ目を覚ますことができたら、「メルセンヌ素数はいくつまで見つかっていますか? 無限個あると証明されましたか?」と真っ先に聞きたいものだ。後者の答えがYESだったら、きっと、新しいゼータが活躍していることだろう。


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