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チェビシェフの定理のラマヌジャンの鮮やかな証明

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 前回も書いた通り、素数についての啓蒙書を書く準備をしているので、いろいろ資料を集めている。「リーマン予想」にかかわるゼータ関数関係は、黒川先生の著作がたくさんあり、それでカバーできるので準備は十分。でも、「双子素数」関連の解説も入れたいと思っている。双子素数とは、3と5、11と13のように差が2の素数のペアのこと。「双子素数は無限組ある」という予想が「双子素数予想」だ。

 双子素数予想に関しては、ここ数年で、非常に大きな進展があった。「差が246以下の素数のペアは無限組ある」という証明が得られたのだ。これはめちゃめちゃ大きな進展である。この証明には、「ふるい法」という方法論が使われるので、この最新の結果の解説自体は(ぼくの能力的に)不可能であるにしても、「ふるい法」そのものはなんとか解説したいと思っている。最も有名なものは「エラトステネスのふるい」で、これは多くの人がご存知だと思う。他に、ブルンのふるいや、セルバーグのふるいなどがある。

 「ふるい法」をなんとか理解したいと手に入れたのが、Cojocaru&Murty「An Introduction to Sieve Methods and Their Applications」という洋書である。

 

An Introduction to Sieve Methods and Their Applications (London Mathematical Society Student Texts)

An Introduction to Sieve Methods and Their Applications (London Mathematical Society Student Texts)

 

 「ふるい法」の和書は、非常に難しくわかりにくい本が多いのに対して、この本はとても読みやすいし、しかもかなり新しい結果も収められていて良い本だった。

 例えば、ほぼ冒頭に、「ベルトラン&チェビシェフの定理」のラマヌジャンによる証明が解説されている。しかも、相当わかりやすくて感動する。

 「ベルトラン&チェビシェフの定理」というのは、ベルトランが予想してチェビシェフが証明した定理で、「n≧1のとき、n以上2n以下に必ず素数が存在する」というものだ。チェビシェフはθ(x)という関数を使って、これを証明した。θ(x)とは、「x以下の素数の対数値の総和」である。

 それに対して、ラマヌジャンは、ψ(x)という関数を利用している。ψ(x)とは、「1以上x以下の素数べき(pのm乗)たちに対し、その素数の対数値(log p)を加えた総和」である。

ラマヌジャンは、非常に初等的な方法で、

ψ(x)-ψ(x/2)+ψ(x/3)≧(log 2)x+(log xに比例程度の関数)

ψ(x)-ψ(x/2)≦(log 2)x+(log xに比例程度の関数)

を証明する。そしてこれらから、ラマヌジャンは、

ψ(x)-ψ(x/2)≧(1/3)(log 2)x+(log xの2乗に比例程度の関数)

を証明した。ざっくり言えば、「ψ(x)とψ(x/2)との差が、xの1次関数ぐらいの水準で開いていく」、ということだ。したがって、「十分大きいxに対して、xとx/2の間には、必ず素数べきが存在する」ことがわかる。そこで、ちょっと考えると、これから「十分大きいxに対して、xとx/2の間には、素数が存在する」こともわかるのだ。

 理解できてみると、「さ~すが、天才ラマヌジャンだなあ」と思わずうなってしまう証明方法である。なみの数学感覚じゃ思いつかない。

 まあ、このブログにきちんと証明を書ききるのは難しいので、きちんと理解したい人は、ぼくの本が刊行されるのを待ってほしい。(前掲の洋書を読んでもいいけど、けっこう飛躍があって、それを自分で埋めるのは慣れてないと苦労すると思う)

 実はラマヌジャンは、この定理を改良して、次の定理を証明した。

ラマヌジャンの定理

x≧2, 11, 17, 29, 41,・・・のとき,π(x)-π(x/2)≧1, 2, 3, 4, 5, ・・・がそれぞれ成り立つ

ここでπ(x)はx以下の素数の個数を表す。 したがって、π(x)-π(x/2)≧1というのがベルトラン&チェビシェフの定理を表す不等式だが、ラマヌジャンは、「xとx/2の間に素数が少なくとも1個ある」だけではなく、「十分大きいxに対しては、いくらでも多く存在できる」を示したわけだ。実際先ほどのψ(x)の不等式から、こういうことが成り立つのはなんとなく想像できるだろう。ここで、定理の最初のところに登場する「2, 11, 17, 29, 41,・・・」というのが、「ラマヌジャン素数」と呼ばれるものである。きちんと言うと、「π(x)-π(x/2)≧kとなる最小のx」のことだ。ラマヌジャンの定理によって、「ラマヌジャン素数は無限に存在する」ことがわかる。

 ラマヌジャンラマヌジャン素数については、拙著『世界は素数でできている』角川新書のコラムを参照してほしい(このエントリーより情報量がわずかに多いだけだけなんだけど)。

 次回は、同じ洋書から、双子素数についてのことをエントリーする予定。

 

 

 


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