このパロディ小説は、ドラッグを使うことで複素数を使えるようになった受験生が、いくつかの受験問題を複素数によって簡単に解けるようになった一方、悪夢のような魔窟にはまってしまう、というストーリーである。それは、ある与えられた3次方程式に3つの正根があることが明らかなのに、それを求めようとすると虚数Image may be NSFW. Clik here to view.が根の表記に現れて、どうしても消えなくなるという魔窟だったのだ。
クンマーとは、「フェルマーの大定理」に対して、初めて一般的な結果を与えた19世紀の数学者の名前だ。「フェルマーの大定理」は、ご存じのように、「Image may be NSFW. Clik here to view.≧3のとき、Image may be NSFW. Clik here to view.を満たす自然数Image may be NSFW. Clik here to view.は存在しない」というものだけど、Image may be NSFW. Clik here to view.が正則な素数(あるいは正則な素数で割りきれる自然数)については定理が成り立つ、という結果を証明したのだ。(正則素数については説明が面倒なので、ものの本にあたってほしい)。クンマー等の研究によって、円分体(1のべき根を有理数に加えた体)で定義される整数に類似した世界では、素因数分解の一意性が成りたたないことが判明した。これもバッドトリップの魔窟である。
さて、ぼくは最近、『素数ほどステキな数はない』技術評論社を刊行したんだけど、(例えばこのエントリーを参照のこと)、その中で最も重要な参考文献のひとつが、エミール・ボレル『素数』文庫クセジュだったのだ。この本は、ボレルが確率論的な立場から素数を解説したものだ。初等的に「素数定理」に迫っていることがポイント。素数定理とは、「Image may be NSFW. Clik here to view.以下の素数の個数Image may be NSFW. Clik here to view.は、Image may be NSFW. Clik here to view.に漸近する」というものだ。素数は不規則に出現するけど、マクロで見ると、その確率はだいたいImage may be NSFW. Clik here to view.と見なせる、というものである。ボレルはこの定理を、「Image may be NSFW. Clik here to view.個の異なるものからImage may be NSFW. Clik here to view.個を選ぶ組み合わせ数」の計算を使って説明している。高校生にもわかるぐらいの非常に初等的な議論である。「証明」というにはほど遠いが、それでも、「素数定理」の成立と正しさを信じるに足るほどの見事なアプローチになっている。しかも絶妙に確率論的なアプローチなので感心する。ボレルの才能を垣間見られる。ボレルのアプローチについては、拙著で丁寧に解説しているので、読んでみてみてほしい。
双子素数がImage may be NSFW. Clik here to view.以下に何組ぐらい存在するか、についての評価式を手に入れた最初の数学者はブルンという人だ。彼は「ブルンの篩(ふるい)」と呼ばれる方法を用いて評価式を得た。ブルンの証明を知りたくて何冊もの専門書(解析的数論という分野)を手にしたけど、どの本を読んでもわかり難くくて、いつも挫折を余儀なくされてきた。ところが、最近入手したKevin Broughan『Bounded Gaps Between Primes』という本で、初めてわかりやすい解説に出会うことができた。なので今回は、この本に書いてある証明をおおまかに要約しようと思う。
そして、この本の第2章は「The Sieves of Brun and Selberg」(ブルンの篩とセルバーグの篩)となっている。「篩(ふるい)」とは、要するに、ある種の性質の数を含むできるだけ少数の数集合を作り出し、その要素数を評価することだ。例えば、「10以上Image may be NSFW. Clik here to view.以下の素数を全部含む集合」として、「10以上Image may be NSFW. Clik here to view.以下の自然数から2の倍数、3の倍数、5の倍数、7の倍数を取り除いた集合」Image may be NSFW. Clik here to view.を作る。これは(143=11×13など)素数でない数ももちろん含むが、10以上Image may be NSFW. Clik here to view.以下の素数すべてを含んでいて、10以上Image may be NSFW. Clik here to view.以下の自然数全体よりはだいぶ小さい集合である。集合Image may be NSFW. Clik here to view.の要素数を正確にカウントする、あるいは評価することができれば、10以上Image may be NSFW. Clik here to view.以下の素数の個数をおおざっぱに見積もることができる。ちなみにこの「篩Image may be NSFW. Clik here to view.」は「エラトステネスの篩」と呼ばれるものだ。(エラトステネスはギリシャ時代の数学者)
Kevin Broughan『Bounded Gaps Between Primes』には、ブルンとセルバーグの履歴が書いてある。セルバーグは有名な数学者だが、ブルンについての書籍での記述は初めて見た。
(定理A) Image may be NSFW. Clik here to view.以下の素数Image may be NSFW. Clik here to view.で、Image may be NSFW. Clik here to view.も素数になるような素数Image may be NSFW. Clik here to view.の個数をImage may be NSFW. Clik here to view.と置くとき、Image may be NSFW. Clik here to view.において、Image may be NSFW. Clik here to view.<<Image may be NSFW. Clik here to view.
(定理B) 素数Image may be NSFW. Clik here to view.で、Image may be NSFW. Clik here to view.も素数になるような素数Image may be NSFW. Clik here to view.、の逆数和は収束する。
定理Aは「おお、やっぱりそうか」と思えるものである。有名な「素数定理」によって、「Image may be NSFW. Clik here to view.以下の素数の個数Image may be NSFW. Clik here to view.がImage may be NSFW. Clik here to view.に漸近する」ということが証明されている。これはImage may be NSFW. Clik here to view.だから、「十分大きいImage may be NSFW. Clik here to view.付近の数が素数である確率は、Image may be NSFW. Clik here to view.だ」と解釈できる。であるから、「Image may be NSFW. Clik here to view.が素数でImage may be NSFW. Clik here to view.も素数である確率はImage may be NSFW. Clik here to view.だ」というおおざっぱな見積もりが浮かび上がる。ブルンの評価では、双子素数の「存在割合」は、その「確率」にImage may be NSFW. Clik here to view.を乗じたものより小さいとしているから、「なるほどね」と頷ける。ちなみに、「素数定理」の証明は前掲の『素数ほどステキな数はない』に概要を書いてあるので、是非ご覧になってほしい。
定理Aから定理Bを証明するのは、わりあい簡単で、『Bounded Gaps Between Primes』では次のように解説している。すなわち、定理Aから、次の評価式が得られる。
Image may be NSFW. Clik here to view.<<Image may be NSFW. Clik here to view. (ここで0<Image may be NSFW. Clik here to view.<1)。
Image may be NSFW. Clik here to view.をImage may be NSFW. Clik here to view.組目の双子素数の最初の数(すなわち、Image may be NSFW. Clik here to view.が素数でImage may be NSFW. Clik here to view.も素数であるようなImage may be NSFW. Clik here to view.でImage may be NSFW. Clik here to view.番目のもの)とすると、Image may be NSFW. Clik here to view.となる。したがって、
Image may be NSFW. Clik here to view.
が出てくる。明らかにImage may be NSFW. Clik here to view.だから、
補題1(ブルンの純正篩) Image may be NSFW. Clik here to view.をImage may be NSFW. Clik here to view.個の要素から成る有限集合とし、Image may be NSFW. Clik here to view.をImage may be NSFW. Clik here to view.の部分集合とする。Image may be NSFW. Clik here to view.の要素でImage may be NSFW. Clik here to view.のいずれにも属さないものの個数をImage may be NSFW. Clik here to view.と置く。このとき、任意の偶数Image may be NSFW. Clik here to view.に関して、次が成立する。
Image may be NSFW. Clik here to view.
この補題は要するに、Image may be NSFW. Clik here to view.の合併集合に入っていない要素数をカウントするもの。Image may be NSFW. Clik here to view.のうちのいくつかの部分集合の共通部分を足したり引いたりする、いわゆる「包除原理」の計算になっている。受験でよく出る「100までに3の倍数でも5の倍数でもない整数はいくつある?」のような問題の解法に現れる計算だ。双子素数でないある種の整数たちを取り除いて、双子素数を含む小さい集合を作りだし、その個数Image may be NSFW. Clik here to view.をこの式で評価するのである。
補題2 Image may be NSFW. Clik here to view.>1とする。また、Image may be NSFW. Clik here to view.を異なる奇素数とする。このとき、Image may be NSFW. Clik here to view.<1が存在して、 ( Image may be NSFW. Clik here to view.が積Image may be NSFW. Clik here to view.で割り切れるならImage may be NSFW. Clik here to view.で)、
「 Image may be NSFW. Clik here to view.以下のImage may be NSFW. Clik here to view.でImage may be NSFW. Clik here to view.が積Image may be NSFW. Clik here to view.で割り切れるようなImage may be NSFW. Clik here to view.の個数」=Image may be NSFW. Clik here to view.
この定理の証明には、有名な「中国剰余定理」が利用される。「中国剰余定理」とは、例えば、「3で割ると余りがImage may be NSFW. Clik here to view.、5で割ると余りがImage may be NSFW. Clik here to view.なる数」が「15で割った余りで分類できる」というのを一般化したものである。
さて、この2つの補題は次のように利用される。今、Image may be NSFW. Clik here to view.以下の素数を小さい順にImage may be NSFW. Clik here to view.とする。また、双子素数のペアの小さい方Image may be NSFW. Clik here to view.でImage may be NSFW. Clik here to view.より大きくImage may be NSFW. Clik here to view.以下であるもの(Image may be NSFW. Clik here to view.<Image may be NSFW. Clik here to view.かつImage may be NSFW. Clik here to view.が素数)の個数をImage may be NSFW. Clik here to view.と定義する。さらに、Image may be NSFW. Clik here to view.なるImage may be NSFW. Clik here to view.で、積Image may be NSFW. Clik here to view.がImage may be NSFW. Clik here to view.のいずれの素数の倍数ともならないImage may be NSFW. Clik here to view.の個数をImage may be NSFW. Clik here to view.と定義する。さきほどの双子素数のかたわれImage may be NSFW. Clik here to view.は、Image may be NSFW. Clik here to view.も素数だから、積Image may be NSFW. Clik here to view.がImage may be NSFW. Clik here to view.のいずれの素数の倍数ともならず、今のImage may be NSFW. Clik here to view.の定義を満たしている。したがって、Image may be NSFW. Clik here to view.が成り立つ。よって、Image may be NSFW. Clik here to view.を篩として利用すれば良いのだ。そこで、求めたい集合の裏側にあたる集合Image may be NSFW. Clik here to view.を「積Image may be NSFW. Clik here to view.が素数Image may be NSFW. Clik here to view.の倍数となるImage may be NSFW. Clik here to view.の集合」と定義して、(補題1)(補題2)を用いれば、Image may be NSFW. Clik here to view.を不等式で評価することができるのである。詳しくは『Bounded Gaps Between Primes』で勉強してほしい。
記号の説明をすると、左辺のImage may be NSFW. Clik here to view.、Image may be NSFW. Clik here to view.、Image may be NSFW. Clik here to view.はそれぞれ実質消費量、実質貨幣量、実質資産量。(文字は、consumption、money、assetに由来)。ここで「実質」とは、物価で割った値であることを意味する言葉。例えば、消費に使う金額をImage may be NSFW. Clik here to view.、物価をImage may be NSFW. Clik here to view.とすれば、実質消費量Image may be NSFW. Clik here to view.は、Image may be NSFW. Clik here to view.となる。右辺のImage may be NSFW. Clik here to view.は「インフレ率」(物価の変化率)で、Image may be NSFW. Clik here to view.は「時間選好率」。「時間選好率」とは、「今の消費を我慢することによる不満分をちょうど補うだけの将来の消費増分」のこと。経済学では、「今1万円もらって消費をするのと、1年後に1万円もらって消費をするのとでは、今の方を好む」とされていて、「今1万円もらって消費をするのと、1年後に1.2万円もらって消費をするのとなら、どっちでも良い」となる場合の増加分0.2を時間選好率と呼んでいる。
その上で、Image may be NSFW. Clik here to view.とは、「資産プレミアム」と呼ばれる量で、「資産を一定期間1円を多く保有することで生まれる付加的な満足度と同等の満足度を、モノの消費を今増やすことによって得るには、どのくらいの額が必要か」という量を表す。大事なことは、「消費の金額」の単位で表されている、ということ。(本書では省略されているが、もっと経済学的な説明を、ミクロ経済学の知識がある人に向けて最後の補足で説明する)。
さらに、Image may be NSFW. Clik here to view.は、「流動性プレミアム」と呼ばれる量で、「貨幣を1円多く持つことによる取引の便利さからの満足度と同じ水準の満足度を消費によって得るには、消費をいくら増やせばよいか」を表す。貨幣は、「いつでもその額面の何とでも交換できる」という利便性を備えた財であり、「その利便性の満足を消費から得るなら」という量が「流動性プレミアム」なのである。
whereのあとで説明しているのは、インフレ率Image may be NSFW. Clik here to view.がどう決まっているか。もちろん、方程式の中のImage may be NSFW. Clik here to view.を置き換えてもいいが、わかりやすさのために分離しておいた。この式において、Image may be NSFW. Clik here to view.は供給能力。すなわち、全資本と全労働者をフル稼働するとどのくらいの生産物ができるかを表す。一方、Image may be NSFW. Clik here to view.は総需要で、人々がどのくらいの量の生産物を欲しているかを表す。したがって、whereのあとの式は、「インフレ率が総需要量と供給能力との乖離(超過需要率)に比例する」という仮定を表している。比例定数Image may be NSFW. Clik here to view.は、物価調整の効率性を表す。
基本方程式Image may be NSFW. Clik here to view.が成り立つのは、左辺が貯蓄1円増(資産1円増)の総便益を表し、右辺が貯蓄のコストを表すからである。右辺のImage may be NSFW. Clik here to view.は消費を将来に回すときのご褒美分を意味し、Image may be NSFW. Clik here to view.がインフレによる消費の値上がり分を表すから、貯蓄の総便益はこの和をぴったり補わなければならない。それがこの方程式の意味である。
ここで、本書は、資産保有と貨幣保有の関係について次のように説明する。すなわち、収益資産1円増の総便益は、利子Image may be NSFW. Clik here to view.と資産プレミアムの和Image may be NSFW. Clik here to view.となる。他方、貨幣1円増の総便益はImage may be NSFW. Clik here to view.となる(貨幣保有は資産保有もかねていることに注意せよ)。この二つの総便益は等しくならなければならない。なぜなら、資産保有の総便益が上回るなら、保有している貨幣を1円資産に回せば総便益の和が増加するからだ。逆の場合もしかり。よって、Image may be NSFW. Clik here to view.が成り立ち、したがって、Image may be NSFW. Clik here to view.となる。言葉で言えば、「流動性プレミアムは利子率と等しい」ということだ。
基本方程式Image may be NSFW. Clik here to view.を土台にして、小野さんは「成長経済」と「成熟経済」を分類する。
まず、成長経済とは、生産能力Image may be NSFW. Clik here to view.がまだ低く、そのため人々の消費水準も低く、消費増大意欲の強い経済のことだ。金融資産も少ない。この経済において、仮に人々が貯蓄を優先して消費を抑え、モノの総需要Image may be NSFW. Clik here to view.が生産能力に届かない乖離が起きたらどうなるか。総需要Image may be NSFW. Clik here to view.が供給能力Image may be NSFW. Clik here to view.より小さくなるので、人手が余り、物価の下落(whereの式でインフレ率Image may be NSFW. Clik here to view.が負、つまりデフレ)が起きる。すると、実質資産量Image may be NSFW. Clik here to view.も実質貨幣量Image may be NSFW. Clik here to view.も増大する(物価で割った量だから)。これは基本方程式の左辺が小さくなることを意味するので、右辺「貯蓄のコスト」(=消費の便益)が相対的に大きくなり、人々は消費を増やすように行動する。これでImage may be NSFW. Clik here to view.が増加していき、すぐに生産能力Image may be NSFW. Clik here to view.を実現する。こうなると、インフレ率は0となり(whereの式)、経済は動かなくなり、完全雇用に復帰する。他の調整については本書で読んで欲しいが、要するに、物価の変化によって、実質資産量と実質貨幣量が柔軟に変化し、消費と貯蓄が自動調整される、ということなのだ。だから放っておいても経済は安定する。
他方、生産能力Image may be NSFW. Clik here to view.も消費Image may be NSFW. Clik here to view.も十分に大きくなった「成熟経済」では、これと異なる様相が生じる。それは、小野さんの仮定「資産プレミアムImage may be NSFW. Clik here to view.は、同じ消費Image may be NSFW. Clik here to view.に対して資産Image may be NSFW. Clik here to view.の増加によって小さくなっていくが、資産Image may be NSFW. Clik here to view.も消費Image may be NSFW. Clik here to view.も十分大きい場合、同じ消費Image may be NSFW. Clik here to view.に対して資産Image may be NSFW. Clik here to view.の増加による資産プレミアムImage may be NSFW. Clik here to view.の低下は止まり、一定量Image may be NSFW. Clik here to view.以下には下がらなくなる」に依存する。専門用語では「限界効用の非飽和性」、ひらたく言えば、「底なし沼のような金持ち願望」ということだ。これが理論のキモとなる。つまり、資産プレミアムが資産量増加に無反応になる、ということだ。こうなると、上の「成長経済」のところで述べた自動調整機能が働かなくなる。総需要が生産能力を下回り、デフレが起き、資産量と貨幣量の増大が起きても、資産プレミアムが資産量に無反応になるので、消費は刺激されず、貯蓄にいそしむだけになる。したがって、需要不足はいつまでたっても解消されず、長期不況が到来する。
今の説明において、流動性プレミアムImage may be NSFW. Clik here to view.のほうはどうなっているのか?ここが、最初に述べた(B)の点である。要するに「ゼロ金利」のメカニズムなのである。すなわち、(実質)貨幣量Image may be NSFW. Clik here to view.が増加するに従って、流動性プレミアムImage may be NSFW. Clik here to view.は減少する。貨幣量が限度を超えて増加すれば、流動性プレミアムはゼロに収斂する。すると上のほうで説明した等式Image may be NSFW. Clik here to view.から、利子率Image may be NSFW. Clik here to view.もゼロとなる。これがゼロ金利である。したがって、デフレによる貨幣量の増大も基本方程式の左辺に変化を与えないのである。まとめると、資産量も消費量も十分に大きくなった成熟経済の基本方程式は、Image may be NSFW. Clik here to view.となる。
資産プレミアム「資産を一定期間1円を多く保有することで生まれる付加的な満足度と同等の満足度を、モノの消費を今増やすことによって得るには、どのくらいの額が必要か」とは、要するに、Image may be NSFW. Clik here to view.、のこと。ここで、Image may be NSFW. Clik here to view.は消費の効用関数で、Image may be NSFW. Clik here to view.は資産保有の効用関数。以前の小野さんの本ではこう提示されていた。なぜ、これが上の説明になるのか。
まず、関数Image may be NSFW. Clik here to view.のImage may be NSFW. Clik here to view.が微少量だけ増えてImage may be NSFW. Clik here to view.になったときの関数値の増分が、近似的にImage may be NSFW. Clik here to view.であることを思い出そう(テイラー展開)。これを念頭に置き、Image may be NSFW. Clik here to view.とImage may be NSFW. Clik here to view.が実質値であることに注意すれば、消費をImage may be NSFW. Clik here to view.円分だけ増加させたときの効用の増加は、Image may be NSFW. Clik here to view.。これはまさに「1円資産を増やしたときの付加的な満足度」になっている。
小野さんの本では、ケインズの消費関数を旧消費関数と呼び、Image may be NSFW. Clik here to view.と表記している。ここで、右辺は関数記号Image may be NSFW. Clik here to view.であることに注意。つまり、数学でよく使うImage may be NSFW. Clik here to view.の一種として、Image may be NSFW. Clik here to view.を投入しているということ。左辺のImage may be NSFW. Clik here to view.は(実質)消費量、右辺のImage may be NSFW. Clik here to view.は、順に、(実質)総需要、(実質)総税額、(実質)総給付額を表す(「実質」の意味は、前回のエントリー参照)。したがって、Image may be NSFW. Clik here to view.は、いわゆる可処分所得(家計が同時点で自分が使える所得)を意味することになる。だから、式Image may be NSFW. Clik here to view.が意味するのは、「各時点における人々の消費は、同時点で自分が使える所得に応じて(関数Image may be NSFW. Clik here to view.に従って)決まる」という仮定だ。
マクロ経済学の教科書で、旧ケインズIS-LMモデルを扱うときは、関数Image may be NSFW. Clik here to view.をよく1次関数に設定する。すなわち、Image may be NSFW. Clik here to view.とする。このとき、総需要Image may be NSFW. Clik here to view.は、消費需要と投資需要と政府需要を合わせたものImage may be NSFW. Clik here to view.だから、それを代入し、Image may be NSFW. Clik here to view.が得られる。これを、消費Image may be NSFW. Clik here to view.の1次方程式として解けば、消費Image may be NSFW. Clik here to view.が、投資需要Image may be NSFW. Clik here to view.と政府需要Image may be NSFW. Clik here to view.と税金Image may be NSFW. Clik here to view.と給付金Image may be NSFW. Clik here to view.の式で表されることになる。したがって、総需要Image may be NSFW. Clik here to view.も投資需要Image may be NSFW. Clik here to view.と政府需要Image may be NSFW. Clik here to view.と税金Image may be NSFW. Clik here to view.と給付金Image may be NSFW. Clik here to view.の式で表される。できた方程式は、投資需要Image may be NSFW. Clik here to view.が利子率の関数だと見なすことで、総生産(=総需要)と利子率の関係式となる。これがIS曲線を描く。
ちなみに以上の導出は、総生産Image may be NSFW. Clik here to view.がImage may be NSFW. Clik here to view.と一致することから、Image may be NSFW. Clik here to view.のところに関数Image may be NSFW. Clik here to view.を代入し、Image may be NSFW. Clik here to view.としておいて、これを総生産Image may be NSFW. Clik here to view.を変数とする関数と見なして、その値が再びImage may be NSFW. Clik here to view.と一致する場合を解くのと同じことである。関数Image may be NSFW. Clik here to view.のいわゆる「不動点」を求めているわけである。グラフの言葉で表現するなら、「45度線と関数のグラフの交点を求めること」なので、「45度線分析」とか「ケインジアン・クロス」と呼ばれる。
である。ここで、左辺のImage may be NSFW. Clik here to view.、Image may be NSFW. Clik here to view.、Image may be NSFW. Clik here to view.はそれぞれ実質消費量、実質貨幣量、実質資産量で、Image may be NSFW. Clik here to view.は貨幣保有から得られる便益、Image may be NSFW. Clik here to view.は資産保有から得られる便益を意味する。右辺のImage may be NSFW. Clik here to view.は「インフレ率」(物価の変化率)で、Image may be NSFW. Clik here to view.は「時間選好率」。また、Image may be NSFW. Clik here to view.は供給能力。(詳しくは前回参照のこと)。
特に、モノも資産も豊富になった「成熟経済」での方程式は、上記の左辺が変わって、
Image may be NSFW. Clik here to view.
となる。ここで、左辺のImage may be NSFW. Clik here to view.とは、資産量Image may be NSFW. Clik here to view.が十分大きくなって、基本方程式の貨幣保有から得られる便益Image may be NSFW. Clik here to view.が0に収斂し、資産保有から得られる便益Image may be NSFW. Clik here to view.が、同じImage may be NSFW. Clik here to view.に対して不変(Image may be NSFW. Clik here to view.に影響されず一定)な、Image may be NSFW. Clik here to view.だけの関数Image may be NSFW. Clik here to view.に収斂してしまったことを表している。
ここで、基本方程式から、インフレ率 Image may be NSFW. Clik here to view.がImage may be NSFW. Clik here to view.と表されることから、インフレ率は総需要Image may be NSFW. Clik here to view.と生産能力Image may be NSFW. Clik here to view.(の開き)によって決まる、ということが仮定されている。上の「成熟経済」の方程式Image may be NSFW. Clik here to view.をImage may be NSFW. Clik here to view.について解けば、消費関数Image may be NSFW. Clik here to view.を導出することができる。これも総需要(=総生産)Image may be NSFW. Clik here to view.の関数となっているので、旧消費関数と同じく、関数Image may be NSFW. Clik here to view.の不動点が総生産Image may be NSFW. Clik here to view.を決めることになる(ここで投資Image may be NSFW. Clik here to view.は、消費が低迷しているため、減価償却の分のみのほぼゼロと考えてよい)。言い換えると、「45度線分析」(ケインジアン・クロス)によって総生産が決まる。小野さんは、この消費関数Image may be NSFW. Clik here to view.を「新消費関数」と呼んでいる。
これを数学的に見るには、旧消費関数Image may be NSFW. Clik here to view.に変数Image may be NSFW. Clik here to view.(=給付金)が入っているが、新消費関数Image may be NSFW. Clik here to view.には入っていないことからすぐわかる。また、日本の「失われた30年」の間の経済政策の無効性の経験(同書にいくつかのデータが掲載されているので参照こと)からも、旧消費関数が間違っていることが推測される。
消費税増税はその率だけ消費者物価を引き上げるため、景気に及ぼす効果は、物価上昇がもたらす実質金融資産の減少効果である。したがって、消費意欲の大きな成長経済においては、貨幣Image may be NSFW. Clik here to view.や資産Image may be NSFW. Clik here to view.が減って人々の流動性プレミアムImage may be NSFW. Clik here to view.や資産プレミアムImage may be NSFW. Clik here to view.が上昇し、貯蓄意欲が高まるから、消費を減らしてしまう。ところが成熟経済では、資産プレミアムImage may be NSFW. Clik here to view.は実質金融資産に反応しないため、消費は変化しない。このように、消費税増税が消費を引き下げるという主張が正しいのは成長経済だけであり、成熟経済では成り立たない。(p84-p85)
今回、久しぶりに彌永本を読んでまず興味をひかれたのは、位相空間の構築の仕方だった。通常は「開集合」の導入から始めるのが定番だと思う。開集合を知らない人は、周を含まない円をイメージすれば良い。それらを合併したり、共通部分をとったりしてできる図形が開集合だ。それに対して、彌永本では「閉包」から導入している。閉包というのは、点集合Image may be NSFW. Clik here to view.を変形する操作で、おおざっぱにいえば、Image may be NSFW. Clik here to view.の点列が密集している場所にある点をImage may be NSFW. Clik here to view.に付け加えてできる点集合のことだ。Image may be NSFW. Clik here to view.の閉包(密集部にある点を付け加えた集合)をImage may be NSFW. Clik here to view.と記す。ここで、「密集」というのは、普通の平面ならイメージできるけど、一般の空間ではなんだかよくわからない概念なので、むしろ、閉包の持つべき性質を定義することによって特徴づける。それが、以下の4つの性質だ。
(i) Image may be NSFW. Clik here to view.空集合の閉包は空集合
(ii) Image may be NSFW. Clik here to view.合併の閉包は閉包の合併
(iii) Image may be NSFW. Clik here to view. 閉包は元の集合を含む。
(iv) Image may be NSFW. Clik here to view. 閉包の閉包をとると、変化しない。
閉包を「密集している点(近づいていく先)を取り込む」だとイメージすれば、上記の4つは当然そうなるだろうな、と受け入れられるだろう。位相空間論では、逆にこの4つがなりたつとき、Image may be NSFW. Clik here to view.をImage may be NSFW. Clik here to view.が密集する点を取り込んだ図形だと定義している。その空間に固有の「密集」を定義している、ということ。そして、このImage may be NSFW. Clik here to view.から、開集合とか閉集合とか近傍とかを順次定義していくことになる。例えば、Image may be NSFW. Clik here to view.となるImage may be NSFW. Clik here to view.が閉集合で、閉集合の補集合が開集合というあんばいである。ちなみに、このように位相空間を構成するのは、クラウスキーという数学者の流儀らしい。
開集合を主役とした定番の教科書では、「空間Image may be NSFW. Clik here to view.から空間Image may be NSFW. Clik here to view.への関数Image may be NSFW. Clik here to view.が連続」ということが、「空間Image may be NSFW. Clik here to view.の任意の開集合Image may be NSFW. Clik here to view.のImage may be NSFW. Clik here to view.によるImage may be NSFW. Clik here to view.への引き戻しImage may be NSFW. Clik here to view.がImage may be NSFW. Clik here to view.の開集合」と定義されるんだけど、「引き戻し」というのがどうにも違和感がある。なぜなら、「関数が連続」の定義は、雑な言い方だけど、「Image may be NSFW. Clik here to view.がImage may be NSFW. Clik here to view.に近づくなら、関数値Image may be NSFW. Clik here to view.がImage may be NSFW. Clik here to view.に近づく」というものだから、「引き戻し」で語られてないからだ。
ところが閉包を使って連続関数を定義するなら、「空間Image may be NSFW. Clik here to view.の任意の部分集合Image may be NSFW. Clik here to view.について、Image may be NSFW. Clik here to view.の閉包の関数値の集合が、Image may be NSFW. Clik here to view.の関数値の集合のImage may be NSFW. Clik here to view.における閉包に含まれる、すなわち、Image may be NSFW. Clik here to view.」となる。この定義は、さきほど書いた「Image may be NSFW. Clik here to view.がImage may be NSFW. Clik here to view.に近づくなら、関数値Image may be NSFW. Clik here to view.がImage may be NSFW. Clik here to view.に近づく」とまんま同じだと解釈できるように思える。「周辺の点を周辺に写す」ということだからだ。以前は、全くそんなことを考えもしなかった。でも今は、「何が自然だと思うか」ということに当時と違う感覚があるんだね。
完全系列というのは、Image may be NSFW. Clik here to view.というふうに、集合Image may be NSFW. Clik here to view.が準同型写像(Image may be NSFW. Clik here to view.,Image may be NSFW. Clik here to view.,Image may be NSFW. Clik here to view.,Image may be NSFW. Clik here to view.)で繋がれているもので下で述べる条件を満たすものを言う。ここで「準同型」とは、代数的構造が保存される写像のことである。例えば、Image may be NSFW. Clik here to view.が群なら、積が保存される写像(すなわち、Image may be NSFW. Clik here to view.)で、Image may be NSFW. Clik here to view.が環なら、和と差と積が保存されるような写像のことだ。これらの準同型Image may be NSFW. Clik here to view.が、すべて、「(Image may be NSFW. Clik here to view.の像)=(Image may be NSFW. Clik here to view.の0の逆像)」を満たすものが「完全系列」なのである。正式に書くと例えば、Image may be NSFW. Clik here to view.などとなる。
Image may be NSFW. Clik here to view.とImage may be NSFW. Clik here to view.に対しては簡単になる。Image may be NSFW. Clik here to view.だから、Image may be NSFW. Clik here to view.となり、これはImage may be NSFW. Clik here to view.が単射であることを意味する。また、Image may be NSFW. Clik here to view.だから、Image may be NSFW. Clik here to view.となって、Image may be NSFW. Clik here to view.が全射であることを意味する。だから、わかりにくい条件は、Image may be NSFW. Clik here to view.ということだ。
先ほど例に出した完全系列Image may be NSFW. Clik here to view.で考えよう。ここで、Image may be NSFW. Clik here to view.がベクトル空間としよう。すると、
(Bの次元)=(Aの次元)+(Cの次元) (すなわち、Image may be NSFW. Clik here to view.)
が成り立つことになる。これをうまく使うとリーマン・ロッホが出てくるんだな。
この定義の証明は、完全系列に慣れるとそこそこ簡単になる。準同型Image may be NSFW. Clik here to view.に注目すれば、準同型定理から、Image may be NSFW. Clik here to view.をImage may be NSFW. Clik here to view.で割った商集合Image may be NSFW. Clik here to view.が、Image may be NSFW. Clik here to view.と同型になる。上に書いたようにImage may be NSFW. Clik here to view.は全射だから、Image may be NSFW. Clik here to view.。したがって、商集合Image may be NSFW. Clik here to view.はImage may be NSFW. Clik here to view.と同型。一方、完全系列だからImage may be NSFW. Clik here to view.であるから、商集合Image may be NSFW. Clik here to view.がImage may be NSFW. Clik here to view.と書き換えられる。ここで、Image may be NSFW. Clik here to view.が単射であることを思い出せば、Image may be NSFW. Clik here to view.をImage may be NSFW. Clik here to view.と同一視できる。まとめる、Image may be NSFW. Clik here to view.がImage may be NSFW. Clik here to view.と同型だということになる。ここで次元を考えれば、Image may be NSFW. Clik here to view.となるから、証明が終わる。
この本は、ベクトル空間からはじめて、多項式環、有理整数環、非可換環と加群の世界を進んでいく。秀逸なのは、第1章で、線形代数を完全系列という「日常言語」で再現してくれていること。こういう本こそ、求められている本だと思う。例えば、この本には、さきほどのImage may be NSFW. Clik here to view.を、準同型定理を使わずに、ベクトル空間の素朴な表現を使って証明してくれてる。至れり尽くせりだ。
Image may be NSFW. Clik here to view.の奇素数pすべてにわたる積 ・・・(2)
ここで関数Image may be NSFW. Clik here to view.は、Image may be NSFW. Clik here to view.がImage may be NSFW. Clik here to view.型素数のときはImage may be NSFW. Clik here to view.、Image may be NSFW. Clik here to view.型素数のときはImage may be NSFW. Clik here to view.となるもの。どちらのオイラー積も、分母がImage may be NSFW. Clik here to view.の1次式になっているから、「1次のオイラー積」と呼ばれている。
これをImage may be NSFW. Clik here to view.の多項式として展開して、Image may be NSFW. Clik here to view.の係数をImage may be NSFW. Clik here to view.と定義する。すなわち、
Image may be NSFW. Clik here to view.
ということ。Image may be NSFW. Clik here to view.を求めるには、Image may be NSFW. Clik here to view.を途中までで打ち切って展開し、それ以降には出てこないImage may be NSFW. Clik here to view.に対して、係数を決定して行けば良い。
実際に求めてみると、次のようになる(らしい)。
Image may be NSFW. Clik here to view.
Image may be NSFW. Clik here to view.
Image may be NSFW. Clik here to view.
ラマヌジャンは、この係数Image may be NSFW. Clik here to view.たちを分子に乗せて、L関数を作った。すなわち、
まず、「1次のオイラー積」が出てくるからくりは、関数の性質「乗法的」と「完全乗法的」にある。Image may be NSFW. Clik here to view.が互いに素なImage may be NSFW. Clik here to view.に対して、Image may be NSFW. Clik here to view.を満たす場合が「乗法的」、任意のImage may be NSFW. Clik here to view.に対してImage may be NSFW. Clik here to view.を満たす場合が「完全乗法的」と定義される。上のほうで紹介したL関数では、Image may be NSFW. Clik here to view.は、Image may be NSFW. Clik here to view.が偶数なら0、4で割ると1余る奇数なら1、4で割ると3余る奇数ならImage may be NSFW. Clik here to view.と定義される。このとき、Image may be NSFW. Clik here to view.は「乗法的」かつ「完全乗法的」となる。だから、(2)は(1)と一致する。なぜなら、無限等比数列の和の公式から、
Image may be NSFW. Clik here to view.
だから、例えば、Image may be NSFW. Clik here to view.が分母の分数は、Image may be NSFW. Clik here to view.から、Image may be NSFW. Clik here to view.とImage may be NSFW. Clik here to view.の積で出てくるが、「完全乗法的」から、Image may be NSFW. Clik here to view.となってうまく行く。これが「1次のオイラー積」をつかさどるからくりなのだ。
一方、ラマヌジャンのImage may be NSFW. Clik here to view.は「乗法的」だが、「完全乗法的」ではない。実際、例えば、互いに素な2と3については、上に書いた数値から、Image may be NSFW. Clik here to view.となるが(これはめっちゃ不思議だ)、Image may be NSFW. Clik here to view.である。
(この辺で、赤ワインに切り替わった)。
では、「完全乗法的」が成り立たない代わりに何が成り立つのか。これを発見したのがラマヌジャンの天才性だと言える。それは、Image may be NSFW. Clik here to view.に対して、
Image may be NSFW. Clik here to view.・・・(3)
が成り立つ、というのである。例えば、Image may be NSFW. Clik here to view.、Image may be NSFW. Clik here to view.である。よくこんなことに気づいたと驚嘆する。
Image may be NSFW. Clik here to view.なら「完全乗法的」になるが、Image may be NSFW. Clik here to view.を引いている分だけ、ズレが生じている。このズレが、「2次のオイラー積」を生み出す源になっているというわけなのだ。おおざっぱに言うと、Image may be NSFW. Clik here to view.の総和を作る際、上記の(3)を使って変形をほどこすと、ズレの部分に再びImage may be NSFW. Clik here to view.の項が現れ、それを左辺に移項することで2次の部分が生成されることになる。似た現象で言うと、積分計算で部分積分すると右辺に同じ積分が出てきて左辺に移項すれば値が求まっちゃう、みたいな感じ。詳しくは、『素数からゼータへ、そしてカオスへ』で勉強して欲しい。繰り返しになるが、「完全乗法性」から少しだけズレることが、高次のオイラー積という魔法を作り出す呪文の役割を果たすわけなのだ。すごすぎるね。
Image may be NSFW. Clik here to view.が「乗法的」であることと(3)を満たすことは、ラマヌジャンが見抜いて「予想」したのだけど、それを証明したのは、モーデルという数学者だ。予想の翌年(1917年)のことだった。その証明の武器は、モーデル作用素というものだ。
ラマヌジャンのImage may be NSFW. Clik here to view.は、「保型形式」という性質の関数に属する。それを一般化したものが「マース波動形式」というものらしい。マース波動形式に対しては、モーデル作用素を発展させたヘッケ作用素というのを使って、「2次のオイラー積」を持つことが証明できるとのこと(これも『素数からゼータへ、そしてカオスへ』で確認しよう)。すばらしすぎる。
ぼくは、これまでこのブログでも、著作でも、ぼくが中学生のときに数学にはまったきっかけを「フェルマーの大定理」だと書いてきた。この定理は、「Image may be NSFW. Clik here to view.が3以上の整数のとき、Image may be NSFW. Clik here to view.を満たす自然数Image may be NSFW. Clik here to view.は存在しない」というものだ。それに嘘偽りはなく、自分が生きているうちにこの未解決問題が解決したのは、最高の幸せだったと言わざるを得ない。しかも、数学ライターとして、その報道に関わることができたのも誇らしいことだった。
森嶋太郎の本に書かれていたのは、「フェルマーの商」と呼ばれるアイテムだった。ご存じの人が多いと思うが、「フェルマーの小定理」というのがあって、それは、「Image may be NSFW. Clik here to view.を素数とし、Image may be NSFW. Clik here to view.をImage may be NSFW. Clik here to view.の倍数でない自然数とするとき、Image may be NSFW. Clik here to view.はImage may be NSFW. Clik here to view.の倍数となる」というものだ(証明は、拙著『世界は素数でできている』角川新書、または、『素数ほどステキな数はない』技術評論社で読んでね)。したがって、Image may be NSFW. Clik here to view.は整数となる。これを「フェルマーの商」と呼び、Image may be NSFW. Clik here to view.と記される。
「奇素数Image may be NSFW. Clik here to view.について、Image may be NSFW. Clik here to view.の成り立つ自然数Image may be NSFW. Clik here to view.(ただし、自然数Image may be NSFW. Clik here to view.は互いに素)が存在するなら、Image may be NSFW. Clik here to view.はImage may be NSFW. Clik here to view.で割り切れる」
というものだ。ここで「Image may be NSFW. Clik here to view.はImage may be NSFW. Clik here to view.で割り切れる」というのは、Image may be NSFW. Clik here to view.をImage may be NSFW. Clik here to view.で割った「フェルマーの商」は、もう一度Image may be NSFW. Clik here to view.で割り切れる、というのだ。言い換えれば、Image may be NSFW. Clik here to view.はImage may be NSFW. Clik here to view.で割り切れる、ということである。こんなことが簡単に起きるわけがない。これは、「フェルマーの大定理が正しい」という強い傍証となるように思える。何より、フェルマーの大定理がフェルマーの小定理と結びつけられるのだから、こんな奇跡のような定理はないではないか。ぼくはこの定理を知って、非常に興奮したのを覚えている。
その後、フロベニウスとマリマノフが「Image may be NSFW. Clik here to view.はImage may be NSFW. Clik here to view.で割り切れる」も証明したとのこと。そして、このたぐいの定理が次々と更新され、森嶋もその拡張者の一人なのである。